大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)38号 判決 1977年3月30日

控訴人(原告) タイガー石油株式会社

被控訴人(被告) 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金四三四万五、八七〇円およびうち金五〇万円に対する昭和四一年七月一二日より、うち金五〇万円に対する同年八月一三日より、うち金五〇万円に対する同年九月一四日より、うち金一〇〇万円に対する同年一〇月一三日より、うち金一〇〇万円に対する同年一一月一三日より、うち金八四万五、八七〇円に対する同年一二月一四日より各支払ずみまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決と担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張と証拠の関係は、左記に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、控訴人は、本訴請求にかかる請求権を民法上の不当利得返還請求権として構成して主張しているのであつて、租税法上の過誤納金の返還を請求しているものではない。いわゆる過誤納金の返還請求は、(イ)納付当初より納付すべき理由のない場合、(ロ)納付後納付すべき理由が消滅した場合に発生するものであるが、控訴人の本訴請求にかかる返還請求権は当初納付すべき理由があつて納付したが、その後、納付すべき義務が当初から不存在であることがその後に判明した場合であつて、いわゆる過誤納金の返還請求とは性質を異にするものである。したがつて、その消滅時効期間は、民法一六七条により、一〇年である。

二、仮に控訴人の本訴請求にかかる請求権が租税法上の過誤納金の返還請求権であるとしても、本件法人税再更正等処分取消訴訟事件(原判決三枚目表末行目から同裏末行目までに摘示)の判決が確定した昭和四九年八月一六日が、その消滅時効の起算日である。

三、本件法人税再更正等処分取消訴訟事件の確定判決は、本件源泉徴収所得税告知処分のみならず本件加算税賦課決定処分にも、その効力が及ぶべきである。けだし、本件法人税再更正等処分と本件源泉徴収所得税告知処分、本件加算税賦課決定処分とは別個の法律に基づいてなされたものではあるが、前者の処分が実質的な審理判断によつて取り消された場合、遡及的に課税の対象となる所得が不存在となる結果、ひいては後者の処分の対象となる源泉徴収所得税の納付義務もその加算税の納付義務も不存在となるからである。

四、仮に本件法人税再更正等処分取消訴訟事件の確定判決が本件加算税賦課決定処分の効力になんらの影響を及ぼさないとしても、もともと本件源泉徴収にかかる所得税本税の納付義務が不存在であるから、それに対する本件加算税賦課決定処分も当然効力を有しない。

(被控訴人の主張)

控訴人の本訴請求にかかる請求権が租税法上の過誤納金の返還請求権ではなく民法上の不当利得返還請求権であるとの主張、その消滅時効の起算日についての主張および本件法人税再更正等処分取消訴訟事件の確定判決と本件源泉徴収所得税告知処分、本件加算税賦課決定処分との関係についての主張は、すべて独自の見解というべく、理由がない。そもそも本件法人税再更正等処分取消訴訟事件の確定判決は、認定賞与の存否について判断することなく、附記理由の不備という手続的瑕疵を理由に処分を取り消したものであつて、その確定によつて、本件源泉徴収にかかる所得税の納付すべき理由のないことが明白になるはずのものでもないし、本件源泉徴収にかかる所得税の納付義務の消長に何らの影響を及ぼすものでもない。

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求をいずれも失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、左記に付加、補足するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  本件返還請求権は、本件源泉徴収に係る所得税本税については、もし納付義務がないにもかゝわらず納付したものとすれば、当初より納付すべき理由がなかつたのであるから(納付後直ちにその還付を請求しうることは、引用にかかる原判決理由の説示のとおり。)、まさに誤納金にあたり、また加算税については、その賦課決定処分が当然無効のときは同じく誤納金に、違法を理由に右処分が取り消されたときは、納付後に至り納付すべき理由が消滅したのであるから、そのときはじめて過納金にあたるものであつて、いずれも国税通則法五六条一項に基づきその納付金の還付を請求しうるのである。控訴人は、右本税および加算税は、当初納付すべき理由があつて納付したが、その後納付義務が当初から不存在であることが判明したものであるから、本件返還請求権は、過誤納金の還付請求権とはその性質を異にすると主張するが、源泉徴収に係る所得税本税の確定および誤納金の還付請求権の成立については引用にかゝる原判決理由の説示のとおりであつて、従つて控訴人の右主張は、その独自の見解に基いたものであつて、採用することができない。

また、法人税再更正処分の取消判決の確定した日が消滅時効の起算日であるとの控訴人の主張が理由がないことは、引用にかゝる原判決理由の説示のとおりである。

(二)  控訴人は、本件法人税再更正等処分を取り消す確定判決が本件加算税賦課決定処分になんらの影響を及ぼさないとしても、源泉徴収にかかる所得税本税の納付義務が存在しない以上、本税を基準として賦課された加算税は、その成立の基礎を失うものであるから、本件加算税賦課決定処分は当然効力を有しない旨主張するところがある。しかし、仮に本源泉徴収にかかる所得税本税の納付義務が存在しないとしても、本件全証拠によつても、本件源泉徴収にかかる所得税本税の納付義務の存在しないことが一見明白であるとはいえないから、本件加算税賦課決定処分に重大かつ明白な瑕疵があるとはいえず、したがつて、本件加算税賦課決定処分が当然無効であるということもできない。のみならず、仮に本件加算税賦課決定処分が当然無効であるとしても、控訴人の主張する加算税の還付請求権は、その納付のときにその還付を請求することができるわけであるから、その納付の日が消滅時効の起算点であつて、国税通則法七四条の規定により、その納付の日(昭和四一年一二月一三日)より五年を経過した日である昭和四六年一二月一四日に時効により消滅したものというべきである。

よつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条、八九条、九五条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林定人 阪井いく朗 石田真)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例